イスラエルのNewMooがステルスから脱却、代替チーズの原料となる液体カゼインを分子農業で生産

イスラエルの分子農業スタートアップNewMooがステルスモードから脱却し、大豆を用いて乳タンパク質カゼインを生産するプラットフォームを発表しました。

大豆をカゼイン生産の「工場」に


牛乳に含まれるタンパク質の約80%を占めるカゼインは、水分と脂肪分の分離を防ぎ、チーズ特有の味と機能的特性(溶け、伸び、泡立ち)に大きく関与する物質。

独特の構造から、もう一つの乳タンパク質であるホエイと比べて再現することが難しいとされており、代替乳製品の開発におけるボトルネックとなってきました。

ワイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)の研究と知的財産に基づき2021年に設立されたNewMooは、大豆にカゼインを生産する遺伝子を注入し栽培することで、植物体内でカゼインを作り出す「分子農業」と呼ばれる手法を探求。

遺伝子組み換えした微生物を用いて目的物質を生産する精密発酵と技術的には似ているものの、植物の種子が「工場」となるため、発酵生産のような高価なバイオリアクターを必要としません。

さらに、植物は栽培中に大気中のCO₂を吸収して炭素を隔離するため、より環境メリットの大きいことも魅力です。

費用対効果をより高めた液体カゼイン


これにより得られるカゼインは、栄養、組成、機能性においてウシ由来のものと同一。チーズを食べる人が切望する香りや風味、食感を生み出し、チーズの基礎を形成することができるといいます。

NewMooがほかの分子農業企業と一線を画しているのは、最終製品がプロテインパウダーではなく液体であること。

植物体内で作られたカゼインの分離・精製という複雑で高コストな工程を省いており、既存の工場やプロセスにもシームレスに統合できることで、これを原料として用いる乳製品メーカーにとっても費用対効果の高い方法となります。

共同創業者でCEOを務めるDaphna Millerは、「この手法は、消費者、乳製品生産者、農家、健康と動物愛護に敏感なフレキシタリアン、そして地球の気候にとって利益をもたらすものだ」とコメントしています。

注目が高まる分子農業のアドバンテージ


より持続可能な乳タンパク質の開発に取り組むフードテック企業の間では、これまで精密発酵が主流となっていましたが、足元では分子農業を手掛ける企業の増加が目立ち、市場は2029年までに35億ドル(約5,500億円)に達するとも予測されています。

NewMooと同じイスラエル企業では、先日ステルスから脱却したFinally Foods、2018年創業のPigmentumが分子農業によりカゼインを生産。

前者はジャガイモ、後者はロメインレタスを使用しているのに対し、NewMooは多くの植物の選択肢を検討した結果、大豆を選択。価格、収量、タンパク質発現量などを考慮したほか、遺伝子組み換え作物として膨大な研究や規制枠組みがすでに存在していることが決め手となりました。

同社の技術ではまた、1つの植物で2種類以上のタンパク質を同時に発現させることが可能。従来のチーズに含まれる4種類(αs1、αs2、β、κ)のカゼインすべてを開発ターゲットとしています。

この点でも、一度に単一の物質しか生産できない精密発酵に比べてアドバンテージがあり、植物を活用する技術開発は今後も多様性を増していくものとみられます。

参考記事:
NewMoo Creates Casein in Plants for Crafting Moo-Free Cheese
NewMoo Emerges from Stealth Using Plant Seeds as ‘Bioreactors’ to Grow Casein Proteins for Animal-Free Dairy
Molecular Farming Startup NewMoo Debuts Liquid Casein from Soybeans for Animal-Free Cheese

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