英Hoxton Farms、培養脂肪の大規模生産が可能なパイロットプラントを開設
英・ロンドンを拠点に培養脂肪を開発するHoxton Farmsが、生産のスケールアップや顧客企業と共同での試作品開発を目的とした、パイロットプラントの開設を発表しました。
バイオリアクターを自社設計する工房も併設
新工場は14,000平方フィート(約1,300平方メートル)の敷地面積に、細胞培養を行う実験室、食品開発用のキッチン、オフィススペース、共用スペースを完備。従業員数を現在の40名から100名にまで増やす計画です。
同社はまた、業界標準のバイオリアクターと比べてはるかに低いコストで脂肪細胞を成長させられるよう最適化された、独自設計のバイオリアクターを強みとしており、これを作るための工房も併設しています。
当初の年間1トンから、最大で同10トンの培養脂肪を生産することが可能な体制を確立し、大量生産により植物油と同等の価格を達成しようとしています。
不死化した幹細胞から脂肪を培養
合成生物学者のMax Jamillyと、数学者でありコンピュータ科学者のEd Steeleによって2020年に設立されたHoxton Farmsは、代替肉用の脂肪を開発する数少ないスタートアップ企業の一つ。
このカテゴリーには、微生物工学を駆使して動物性脂肪を生産する企業(Nourish Ingredientsなど)や、マイクロカプセル化(Lypid)やオレオゲル化(Shiru)により脂肪の構造を作り出す企業もありますが、Hoxton Farmsは特注のバイオリアクターで動物細胞から脂肪を培養しています。
同社はまず、豚の背脂の培養に注力。ジムで筋肉をつけるよりも家で脂肪を蓄える方が簡単なのと同様、脂肪には筋肉よりも拡張性があり、成長が早いといった利点があるといいます。
具体的なプロセスとしては、成豚から幹細胞(間葉系幹細胞)を採取し、ゲノム工学を用いて不死化。冷凍庫に保管しておき、培養プロセスを開始するたびに細胞を取り出してバイオリアクターに入れ、3〜4週間かけて増殖させます。
コスト削減の鍵となるのは、細胞をできるだけ速く増殖させ、高い分化率(脂肪に変化する細胞の数)と脂肪蓄積量を得るために、培地の処方を最適化すること。
ただし、培地に入れることのできる成分には規制も存在するため、より良い細胞種の選択や、より多くの脂肪を作るよう細胞の工学的な改良なども検討しているとのことです。
脂肪の添加は代替肉に不可欠
Hoxton Farmsは昨年10月、Collaborative FundとFine Structure VenturesがリードインベスターとなったシリーズAラウンドで、2,000万ポンド(約36億3,000万円)を調達。
共同創業者の一人Jamillyは、「代替肉の美味しさは十分ではなく、それが消費者がリピート購入しない主な理由となっている。これを解決する鍵は脂肪で、脂肪の添加なしには、肉を食べる人が切望する経験を再現することは不可能だ」と語っています。
英国政府がライフサイエンス分野の主導権を握るという10年ビジョンを打ち出す中、バイオテクノロジー分野の発展を後押しする動きが形になりつつあるロンドン。Hoxton Farmsの成長は、英国が細胞農業分野においても世界的リーダーを輩出できることを示しているといえるでしょう。
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