【2025年版】微生物発酵業界の現状まとめ —GFIレポート

米国の非営利シンクタンクThe Good Food Institute(以下、GFI)が、代替プロテイン業界の現状をまとめた2024年版レポートを発行しました。
各セクターの商業的状況、投資動向、技術革新、政府と規制の動向に関する分析を提供するレポートの全文は、こちら(🔗GFIウェブサイト)から閲覧可能。
本記事では、微生物発酵食品(伝統発酵・バイオマス発酵・精密発酵)に関する部分の記載をベースに独自調査の内容も加え、2024年の動向と2025年以降の展望についてまとめています。
資金調達はやや回復、多面的な調達策が重要に

微生物発酵由来の代替肉、シーフード、卵、乳製品を手掛けるスタートアップ企業は昨年、世界で合計6億5,100万ドル(約943億円)を調達し、2013年以降の累計調達額は48億ドル(約6,960億円)となりました。
代替プロテイン業界全体への投資が落ち込む中、2023年の5億1,500万ドル(約746億円)からは回復し、明るい兆しを見せています。
投資家は、発酵製品の機能性、消費者の好感度の高さ、魅力的なB2B提案、政府支援の強化に引かれている様子。
最も大きな投資案件となったのは、Meati Foodsの1億ドル(約145億円)で、次いでPerfect Dayの9,000万ドル(約130億円)、Formoの6,100万ドル(約88億4,000万円)、Infinite Rootsの5,800万ドル(約84億1,000万円)でした。
GFIは、現在の調達環境は数年間続いた低金利期とは異なっており、ゼロ金利やマイナス金利が常態化していた2021年のピーク時の環境にすぐに戻ることはないと予測。発酵企業がイグジットに成功した場合、カテゴリー全体への民間資本流入が大幅に増加する可能性があるものの、それまではここ数年に近い水準にとどまるだろうとしています。
いずれにしても、発酵企業が規模拡大を進めるには、より多くのリソースが必要。ベンチャーキャピタル投資はパズルの1ピースに過ぎず、政府、企業、慈善団体など多方面からの支援を模索し、設備リース、戦略的提携、政府系ファンド、ブレンデッド・ファイナンスといった多様な資金調達ソリューションを開発することが、これまで以上に重要と指摘しています。
市場化へ向けた法規制と政府の動き

企業が革新的な発酵技術を開発するにつれ、政府も投資と規制の両面で支援を提供することに関心を高めています。
中でも昨年は、米国で公的支援が急増。イリノイ州における5,100万ドル(約73億9,000万円)を投じた精密発酵イノベーションハブの設置を筆頭に、米国国立科学財団(NSF)、国防総省など各省による少なくとも20のプロジェクトが発表され、政府の発酵技術に対する認識が大きく変わったことが示されました。
規制面では、開発が難しいとされる精密発酵カゼインで初となったNew Cultureをはじめ、多数の企業がGRAS自己認証を取得。Imagindairy(乳清タンパク質)、The Better Meat Co.(マイコプロテイン)、Oobli(甘味タンパク質)は、米国食品医薬品局(FDA)からの正式な認可となる「異議なし」レターを受領しました。
カナダでも、Remilkの乳清タンパク質の安全性が認められ、精密発酵では同国初の認可事例となっています。
古くから発酵分野をリードしてきたアジアでは、中国とインドの政府による貢献が顕著。中国では、All Gが精密発酵(ラクトフェリン)で初めての認可事例を作りました。
オーストラリアでは、Cauldron Fermがアジア太平洋では初となる精密発酵タンパク質の大規模受託生産施設を立ち上げるためのライセンスを取得し、政府から資金面での支援も得ています。
欧州各国も、2024年に発酵への大規模な投資を行いました。欧州イノベーション会議(EIC)の「Work Programme 2024」では総額5,000万ユーロ(約82億6,000万円)が計上され、アクセラレータープログラムを通じて複数の発酵スタートアップが資金を獲得。
また、スウェーデン国立研究所(RISE)がリーダーシップをとったEU全体のプロジェクトとして、菌糸体ベースの代替肉を研究する「PLANTOMYC」、代替乳製品への移行を加速させることを目的とした「DELICIOUS」が発足しています。
英国では発酵生産ハブ「Microbial Food Hub」が新設され、フランスやフィンランド、イスラエルの政府系機関も、企業活動や研究に対して資金を拠出しました。
欧州では特に遺伝子組み換え技術への規制が厳しく、市販前のプロセスで時間がかかっていますが、代替肉大手のImpossible Foodsが原料として用いている精密発酵ヘムタンパク質については安全性が認められ、発売に向け前進しています。
製品開発と大手企業の関与

伝統発酵では、Planted FoodsとChunk Foodsが代替肉製品の小売り販売をスタート。Stockeld Dreamery、Armored Fresh、Plontsは米国で植物性チーズの展開を開始しています。
バイオマス発酵では、Solar Foodsの空気由来タンパク質が、Fazerや味の素と提携しシンガポールで限定発売されたほか、米国市場にもついにデビューを飾りました。
Mush Foodsが米国で、Infinite Rootsが韓国で菌糸体原料を発売し、Quornは英国の病院と提携して病院食に進出。
スイスのCosaic(旧称:Cultivated Biosciences)は油性酵母を用いたコーヒーミルク、中国のProtoga Biotechは世界初の微細藻類ミルクを発表しています。
精密発酵では、The EVERY Companyが卵白タンパク質を代替肉や飲料の原料として展開を開始。Tomorrow Farmsは、精密発酵ホエイを原料に使用した飲むヨーグルトを発売しました。TurtleTreeは、ラクトフェリンの認可取得から1年間で3社との提携を結び、製品化を予定しています。
また、大手食品企業の関与も継続し、ダノンがDMCやミシュランとの提携で、フランスに精密発酵プラットフォームを新設すると発表。ネスレはPerfect Dayの精密発酵ホエイを使用したプロテインパウダー、ユニリーバも同じ原料を用いたアイスクリームを発売しました。
その他、フランスの乳製品大手ベル・グループ、世界最大の水産会社の一つタイ・ユニオン、穀物メジャーのカーギル、ニュージーランドの乳業協同組合フォンテラ、ドイツ最大の養鶏業者PHW Groupなど、各国の食品大手が発酵産業への関与を見せています。
広がる副産物活用の動きと、生産能力確保の課題

微生物発酵により代替プロテインを開発する企業数は、前年から7社増加し165社に。そのうち5社が伝統発酵、80社がバイオマス発酵、80社が精密発酵を手掛けています。
投資、提携、B2Bの製品・サービス提供を行う企業を含めると、これまでに少なくとも210社がこの業界に参入してきました。
国別では米国が最も多く40社を抱え、イスラエル(15社)、英国(14社)、ドイツ(11社)が続いています。
大半の企業は最終製品のレシピ開発と生産に重点を置いていますが、原料の最適化やバイオプロセスの設計といった、発酵バリューチェーンにおける他分野での活動も活発化。業界が成熟するにつれて、各段階の技術スタックに特化した企業が増えると予想されています。
昨年は、種々の技術開発の中でも、食品産業や農業から出る副産物をアップサイクルして価値あるものに変え、廃棄物を減らして食料安全保障をさらに強化する取り組みが盛んに見られるようになりました。
Kynda、MicroHarvest、BioMushなどが挙げられるほか、日本企業のアグロルーデンスも穀物残渣を麹菌培養の基質に使用する特許を取得しています。
一方、引き続き業界全体の課題となっているのが、生産能力の確保。既存の発酵施設のほとんどは代替プロテインの生産には適しておらず、代替プロテイン生産に利用可能な発酵能力は、世界全体で40〜280万トン程度とされています。
2024年は、ScaleUp Bio(シンガポール)、Imagindairy、Brevel(イスラエル)、Melt&Marble(スウェーデン)、Solar Foods(フィンランド)などが新たに生産拠点を拡充。
加えて、Enifer(フィンランド)やKynda(ドイツ)も新施設の稼働計画を進めており、欧州では今後数年間で数万トンの発酵生産が可能となる見込みです。
消費者の認識と受容の拡大

米国で昨年行われた世論調査では、米国の消費者のうち「キノコや菌類から作られた肉」について見聞きした覚えがあると回答したのは27%、「マイコプロテインから作られた肉」については12%。
マイコプロテインベースの代替肉を食べたことがある人は16%に上りましたが、2023年の水準から増加は見られませんでした。
コンセプトとしての認知度が低いとはいえ、すでに多くの製品が販売され商業的な成功を収めているマイコプロテインに対し、これから広範な市場化が期待される精密発酵製品を提供する企業は、製品の特徴やメリットを消費者に明確に説明し、認知度と需要を高めることが重要だとされています。
消費者が精密発酵製品を試す動機も一様ではなく、フランスでは「新規性」、ドイツと英国では「動物福祉」、スペインと米国では「健康」とさまざま。
いずれにしても、少なくない消費者が発酵ベースの製品を試すのに強い関心を持っていると示されており、特に健康面や環境面のメリットを理解した場合にその傾向が強くなることが分かっています。
また、多くのマイコプロテインは特に需要が高まっているクリーンラベル製品の実現に寄与し、精密発酵製品は動物性食品と全く同じ成分を提供できるという点でも独自の強みがあり、その認知度を上げることで消費者受容を拡大できると期待できます。
2025年以降の予測と総括
2024年は、主に資金調達面の課題から代替プロテイン業界のほかのカテゴリーが落ち込んだため、発酵分野のプレゼンスが相対的に高まりました。特にバイオマス発酵では、資金難にもかかわらず技術革新が続いています。生産能力の増強、流通の拡大、政府支援の確保などの面でも明るいニュースが見られました。
GFIは、現在の調達環境は2025年も持続し、資金難に陥った企業の間では事業の縮小、閉鎖、統合といった業界再編が起こる可能性があると指摘。上述のとおり、ベンチャーキャピタル以外も含めた多面的な調達策が重要になると強調しています。
また、スタートアップ企業と多角化企業とのパートナーシップにも注目。鳥インフルエンザの蔓延などで混乱するサプライチェーンのリスクを低減したい企業との大型提携が、市場に出回る製品数を増やし、ひいては生産効率の向上と低コスト化につながる可能性があるとしています。
業界が抱える課題の具体的な解決策としては、生産能力を確保するべく、ビール、ワイン、バイオ燃料産業で使用されているいくつかの発酵施設を代替プロテイン用に改造することを提言。
世界中の政府と投資家に対しては、市民と消費者により良い結果をもたらすことを約束するのであれば、発酵部門を長期的な成功に導くため投資を促進し、支援を強化すべきと訴えかけています。
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